電子機器やシステムの
ノイズ対策・EMC対策に
寄与するプラスチック材料

トピックス

電子機器やシステムを不要電波から保護し正常に動作させるため、ノイズ抑制・EMC対策は欠かせません。
樹脂材料は通常導電性がなく、このような用途に適しませんが、導電性フィラーを配合させたり、特殊な表面処理を施すことにより特定周波数の放射波に対する電磁波シールド性能を発現させることが可能です。

金属材料に替えて、電磁波シールド性能を有する樹脂材料を使用することで、各種部品の軽量化や、金属部品では複数となる部品類の一体成形自由度の高い三次元的な賦形が可能となります。
モビリティ分野では、今後ますます発展する自動運転支援システムの安定化・高度化にも貢献します。

1. 樹脂材料への
電磁波シールド性付与

樹脂材料への導電性付与
炭素繊維のような導電性物質をコンパウンド配合することにより可能です。

導電性が発現し、
成形物が不要輻射となる電磁波を主に反射することで
透過波を減衰させ電磁波シールド性を発揮します。

表1は当社の炭素繊維強化樹脂コンパウンド製品の例です。導電性は炭素繊維の濃度に起因しますので、ベース樹脂は用途に合わせて比較的自由に選択することが可能です。

表1:セビアン・ノバロイ・ダイセルPP 炭素繊維強化導電グレード

特性 測定方法 測定条件 単位 セビアン ノバロイ ノバロイ ダイセルPP
ABS樹脂, 一般 PC/ABS樹脂, 難燃 PA/ABS樹脂, 一般 PP樹脂, 一般
VCF20 KF3020 AC2604 PBG276
成形収縮率 ASTM D955 % 0.1 – 0.4 0.1 – 0.4 0.2 – 0.5
引張強さ ISO 527 MPa 50 130 150 50
曲げ強さ ISO 178 MPa 90 180 240 75
曲げ弾性率 ISO 178 MPa 9,500 14,000 13,000 10,500
ノッチ付き
シャルピー衝撃強さ
ISO 179/1eA 23℃ kJ/m2 6 6 10 4.5
荷重たわみ温度 ISO 75 1.80MPa 97 125 200
0.45MPa 143
燃焼性 UL94 HB V-0/1.6mm(NC,BK) HB
体積抵抗率 ダイセル法 Ω·m 3×10-2 1×10-1 2×10-2 5×10-2
表面抵抗率 ダイセル法 Ω 2×101 4×101 5×100 1×102
密度 ISO 1183 g/cm3 1.15 1.34 1.17 1.01

* ISO等の公的規格の試験方法はその規格に準拠しています。
* これらの数値は代表値であって、品質保証値ではありません。
* 抵抗率は、当社法(2端子法)によって測定しました。
* UL認定ファイルNo.は、E47773です。
* UL認定色毎に色材配合の制限があります。制限の詳細についてはお問い合わせください。

図1は ノバロイAC2604(タイプP)[PA/ABS/CF20%]平板状成形物の電磁波シールド性評価として、KEC法によるシールド効果(SE)の測定結果を示したものです(0.1~1000MHz,電界)。

シールド効果は図2のような計算式で算出されます。Ei,Etはそれぞれ入射電波・透過電波の電界強度です。

シールド効果の単位はdB(デシベル)が使用されます。
これは電磁波の試料透過前後の電界強度比Et/Eiを対数表記したもので、電磁波がどの程度減衰したかを相対的に表します。
dBの値と遮へい率(%)の相関性は図2右枠内の関係となります。

図1:AC2604(P)グレードの電磁波シールド性(KEC法,電界)

図1の点線はKEC法における近傍界電界の測定限界を表していますが、このプロットにおいてシールド効果は伝送線路理論に基づくと直線的に左上がりとなり、100MHz以下の領域では40dB以上のシールド効果が得られているとみなせます。

図2:シールド効果(SE)の計算式

このような樹脂製品を利用すれば、
センサー近傍機器への電波障害・ラジオノイズ抑制が期待できます。

例えば表1のセビアン VCF20[ABS/CF20%]センサー部品の筐体材料として長く使用されています。

2. 準ミリ波・ミリ波帯の
電磁波シールド

近年、自動車の衝突予防安全システムの一部として
ミリ波レーダーセンサー
車両前方や後方の各所に設置されるようになっています。

図3:ミリ波レーダー不要輻射のシールド

ミリ波レーダー装置において意図しない方向の不要電波を遮へいし誤検知を防止する目的で、図3のようなミリ波レーダーカバーを、バンパー部品などの外装部品と一体化して設置することも可能です。
このような方法でミリ波レーダー検知の精度向上を図れます。

この場合、使用される電波の周波数が79GHz, 76GHz, 24GHzのような高周波数帯です。

炭素繊維強化導電グレードは、
準ミリ波・ミリ波帯の電磁波シールドにも有効です。

図4:ミリ波領域におけるPBG276グレードの電磁波シールド性

図4に ダイセルPP PBG276[PP/CF20%](表1)の平板状成形品ミリ波領域における電磁波シールド性を示します。

図5のように広帯域ホーンアンテナを対向させ中央に測定試料を配置することで、放射電波送受信による遠方界電磁波反射・透過係数測定を行いました。

図5:高周波電磁波シールド性評価

PBG276 を用いると周波数領域で非常に高い電磁波シールド性が得られるだけでなく、炭素繊維の配合量を減らすことも可能と考えられます。

準ミリ波・ミリ波帯域の電磁波シールド性能に特化すれば、
より低コストで製品を提供できる可能性があります。

3. 磁界低周波数帯の
電磁波シールド

樹脂材料への炭素繊維の配合は電界波のシールドには有効ですが、インバーターやモーター近傍に生じる磁界低周波の放射ノイズに対するシールド性能はほぼゼロとなります。

このような場合は例えば
パーマロイのような軟磁性金属材料
射出成形品の表面にめっき加工する方法

が有効です。

PP樹脂は低密度で軽量性がありモビリティ向け材料として最適ですが、一般的にPP樹脂は耐薬品性が高く、ABS樹脂等とは異なり、難めっき材料の一つに位置付けられます。

当社では
エッチング処理の可能な樹脂コンパウンド
『ダイセルPP PDG099』
を開発し、

塚田理研工業株式会社・吉野電化工業株式会社と共同で、
めっき表面処理によって磁界低周波領域において
良好な電磁波シールド性が得られる
ことを
見出しました。

図6:PDG099グレードの電磁波シールド性(KEC法,磁界)

表2には、PDG099グレードのめっき前後の機械特性を示します。めっき後は耐熱性や剛性が向上します。

PDG099成形品のめっき処理品は、KEC法による電磁波シールド性試験(図6)では10MHzにおける磁界波シールド性が無電解めっきで約30dBに達し厚膜化が容易な電気めっきでは測定限界線に近い性能を示しました。

表2:ダイセルPP PDG099の基本特性

特性 測定方法 測定条件 単位 ダイセルPP めっき後
めっき用 PP/GF20% 無電解
めっき
電気
めっき
PDG099
引張強さ ISO 527 MPa 64 64 72
曲げ強さ ISO 178 MPa 102 102 145
曲げ弾性率 ISO 178 MPa 6,100 6,200 11,200
ノッチ付き
シャルピー衝撃強さ
ISO 179/1eA 23℃ kJ/m2 8
荷重たわみ温度 ISO 75 1.80MPa 144 155 160
0.45MPa 160 160 160
密度 ISO 1183 g/cm3 1.17

* ISO等の公的規格の試験方法はその規格に準拠しています。
* これらの数値は代表値であって、品質保証値ではありません。

以上のように、
様々な周波数帯における電子機器やシステムのノイズ抑制・EMC対策向け
樹脂コンパウンド製品を紹介致しました。

詳しくは、以下よりご相談ください。

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